本研究は、日本の宗教とジェンダーを考えるうえで重要な尼門跡文書の分析を通じて近世社会における尼僧と尼寺の役割を明らかにすることを目的とする。この目的を遂行するために、本年度は7回の尼寺文書研究会(6月27日・7月25日・9月19日・11月14日・12月12日・1月16日・2月20日)、霊鑑寺工芸品調査2回(9月1日3日、3月6日~8日)を実施した。 研究会においては、公儀から京都・奈良の比丘尼御所に下した触を書き留めた慈受院蔵「総持院触留帳」、元禄11年~正徳6年に至る10冊を講読して翻刻を行った。公儀から京都の町に下された町触は翻刻され『京都町触集成』として刊行されているが、比丘尼御所に宛てた触については殆ど紹介されておらず、江戸幕府の比丘尼御所、あるいは門跡・公家方支配の実態までが明確になると思われ、その翻刻は近世寺院史研究に意義をもつ。また、霊鑑寺の工芸品調査では、江戸中期~明治に至る御所人形・賀茂人形等・人形の衣類等の約70点の調査を行った。人形調査によって比丘尼御所における工芸文化実相を明確にしたのみならず、江戸時代の人形の編年などにも繋がるものとなった。 講読も調査も何れも研究の基礎資料を蓄積する上で貴重なものである。
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