本研究は、日本の宗教とジェンダーを考えるうえで重要な尼門跡文書の分析を通じて近世社会における尼僧と尼寺の役割を明にすることを目的とする。この目的を追行するために、本年度は9回の尼寺文書研究会(4月21日・5月26日・6月23日・7月28日・8月11日・10月8日・11月10日・12月26日・2月10日)を実施し、霊鑑寺調査(2月5日~7日)を行った。 研究会においては、公儀から京都・奈良の比丘尼御所に下された触を書き留めた慈受院蔵「総慈院触留」を対象とした。公儀から町方に下された町触は『京都町触集成』ととして刊行されているが、比丘尼御所に宛てた触については殆ど紹介されておらず、絵幕府の、比丘尼御所・門跡・公家方支配が明確になり、翻刻は近世寺院史研究にも意義を持つ。本年度は研究の最終年度であるため、研究会では主に3年間の整理を行った。前年度まで28冊を講読したが、うち元禄11~享保十三年までの20を報告書に史料集として掲載することとし翻刻文の再度の読み合わせ、史料校訂と史料集原稿作を作成した。 霊鑑寺において総数約100点の陶磁器を対象として詳細な調査を実施するとともに前年度までの人形・染織品調査成果を整理した。 4年間の研究成果をまとめる形で、研究成果報告書(A4版総頁221頁)を編集し3月20日に刊行した。切畑 健「霊鑑寺門跡所蔵の人形・染織」岡 佳子「霊鑑寺門跡所蔵の陶磁器 原口 志津子「霊鑑寺門跡所蔵の書画」岡村 喜史「近世末期の中宮寺と地域社会」水谷 友紀「戒師の選択過程にみる近代中宮寺の動向―明治二十三年を中心に、岸本香織「慈受院蔵「総持院触留」―元禄十一年から享保十三年の翻刻―」の諸論文に約130頁の史料集を収載した。
|