研究課題
本プロジェクトの狙いは、科学技術者集団内部での意思決定と科学の成果を受容する社会での合意形成との間に齟齬があるとの認識に基づいて、その両者を架橋する公共性もった対話の場のモデルを構築することである。そのような対話のモデル形成に際して、ハーバーマスなどによって提案された討議倫理を参照する計画である。本年度は、プロジェクトの一年目にあたるため、主にテーマに関連する文献調査を研究手法とした。研究分担者各自が実施した研究成果を研究メンバーで共有するために、研究分担者の成果報告を核とした研究会を2回(平成21年8月1日と平成22年2月27日)実施した。第一回研究会では、研究分担者の日暮雅夫が、「ハーバーマス討議理論とホネット承認論の形成と対比」というタイトルで講演し、プロジェクトの理論的基礎として位置付けられているハーバーマスの討議倫理の概要を議論した。第二回講演会では、八木絵香が、これまでに実施してきた原子力問題に関する対話フォーラムとオープンフォーラムの実践について、自身の著書(『対話の場をデザインする:科学技術と社会のあいだをつなぐということ』大阪大学出版会、2009年)に基づいて紹介し、その発表に対して、原塑と中尾麻伊香が指定討論者となって、討論をおこなった。なお、オープンフォーラムは本科学研究費プロジェクトに先行する基盤研究(A)「科学的合理性と社会的合理性に関する社会哲学的研究」(研究代表者:野家啓一、平成18年度~20年度)により実施された。この他、平成21年5月30日に、自閉症に関して現象学的観点から研究を進めている大阪大学准教授村上靖彦を招待して、「超越論的テレパシー:創造性と知覚的空想」というタイトルでの講演をしてもらい、自閉症者との望ましいコミュニケーション様態について討論した。また、平成22年2月26日には、対話への自律的参加者の哲学的モデルについて示唆をうるために、ツーソン大学准教授Jenann Ismaelを招いて,"Being of One Mind : Consciousness of Self"というタイトルにおける講演会を開催した。
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