本年度は、トゥルファン地区文物局の協力のもとトゥルファン地区を中心に調査を行った。具体的にはトヨク第42窟および東岸の未編号窟、ならびにベゼクリク第10、26、40、41の各窟で、未発表のものを含む多数の貴重な壁画の写真を撮影することができた。この撮影データに関しては、多数に及ぶため帰国後徐々に処理を進め、処理済みの分についてはトゥルファン地区文物局にも成果を提供している。この成果に関しては、平成23年10月にトゥルファンでの開催が計画されているトゥルファン学会において、同地区文物局と共同で成果を発表すべく打合せを進めている。 またクチャ地区では、クチャ県文物局の要請により、当初の予定外ではあったがクチャ市内に残る最初期のイスラム廟に掲げられた額の撮影実験を行った。この画像に関しては処理を既に完了しており、同県文物局にも成果を提供済である。 デジタル復元の成果そのものの公開は、中国側関係当局との調整の上行う必要があるため、来年度の課題として残ったが、画像復元が本来の目的としていた中央アジアの石窟における禅観関係美術の分析と、それを通した実践の解明に関しては、本年度中も検討を進め、いくつかの成果を発表することができた。また9月にインドのSomaiya Collegeの招きによりムンバイの学会で敦煌壁画の制作過程に関する発表を行った際、発表後にKarlaとBhajaの石窟を訪れ多くの僧坊窟を調査できたことは、中央アジアの仏教窟における実践の先駆形態を探る上で大変有益であった。その帰途には、ニューデリーのインド国立博物館に立ち寄り、同館に所蔵されるスタインコレクションの調査ならびに写真撮影を行った。
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