8月から9月にかけて、新彊ウイグル自治区文物局、トゥルファン地区文物局、新彊焉耆回族自治県文化体育局、新彊亀茲研究院、およびクチャ県文物局の協力のもと、新彊での撮影と調査を行った。まずトゥルファン地区ではバイシハル第3窟とトヨク第42窟で石窟壁画を撮影。次にシクチンに移動して、同地の寺院および石窟の遺跡の現状を調査。さらにクチャ地区に移動し、キジル第49窟・第161窟、クムトラ第75窟、スバシ第3窟・第5窟の撮影を行った。これらの石窟で撮影した写真については、帰国後画像処理を進め、処理の完了したものについては、事前の合意に基づき管理当局であるトゥルファン地区文物局および新彊亀茲研究院にも成果を提供している。撮影した写真の枚数が多数に上るので、画像処理は現在も進行中であるが、処理によって現状では判読の困難な題記を解読することに一部成功しており、今後作業の進展に伴ってさらに多くの研究上有益な画像資料を提供できる可能性がある。 秋に予定されていたトゥルファンでの学会は現地の事情により延期となったので、今回そこで予定していた発表はできなかったが、10月には保存状態のよくないトヨク石窟の壁画と題記の本来の姿を推定する研究を、ウィーン大学で発表(招待講演)することができた。また11月には、禅観経典のなかにしばしば見られる灌頂のイメージの背景と展開を、文献資料と美術資料の双方を用いて検討する招待講演を、金沢大学で行った。
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