研究概要 |
中世シンハラ語仏教文献『サッダルマーランカーラヤ』2章のUnicodeフォントによるローマ字化と解読を通じ,中世期以降スリランカ仏教徒の間で知られたジャータカ,特にブッダの発願と燃燈仏授記に関連して,北伝仏教との明らかな繋がりについて,現存するもっとも古い証拠を得ることができた。これらは19世紀イギリスの伝道師Spence Hardyの記録で知られていたが,パーリ文献には存在しない物語であった。これらの物語が,北伝の漢訳仏教文献や中央アジアのキジル石窟等の絵画とも一致し,スリランカ仏教における北伝仏教の影響に関する研究の方法と資料について,確かな根拠を示すことができた。また,5月のドイツ出張ではゲッティンゲン大学の文献学・歴史学部門図書館に残されている故ベッヒェルト教授が集めたシンハラ語仏教文献の現状を調査し,現在では入手困難な貴重な文献が残されていることからDr.Vladislav Lierの協力を得て,カタログのデジタル化を行った。これは次年度以降,さらに著者別,タイトル別に検索可能なカタログを作成し,重要な文献のデジタル撮影と公開を目標とすることとなった。また,12月のスリランカ現地調査では,大谷大学の清水洋平氏と寺院壁画中のジャータカを撮影し,その配置と撮影写真をHP上で公開すべく,作業に着手している。研究成果は,5月にベルリン・アカデミーで北伝仏教の捨身飼虎本生と法顕,法盛の旅行記,法盛の訳出したT172経とガンダーラおよびスリランカの関連について講演し,9月の日本印度学仏教学会(立正大学)では,燃燈仏授記物語の北伝伝承を整理し,パーリ聖典ならびに後期パーリ・シンハラ文献との関連について論じた。
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