本年度は、研究課題の最終年度にあたるため、スリランカ中世(12世紀~15世紀ごろ)に、スリランカ仏教徒自身により著作された文献を調査・収集したものの成果を発表すべく、特に入手困難となっている、19世紀末から20世紀前半にイギリスから持ち込まれた印刷機で印刷された、シンハラ語仏教文献のうち、スリランカでも忘れ去られ、再刊されない古い文献Saddharmaratnakaraya等をドイツやスリランカで入手したものをPDF化し、HPで閲覧、ダウンロードを可能とした。また、ゲッティンゲン大学歴史・文献学部図書館に所蔵されながら、カタログ化されていない、故ハインツ・ベッヒェルト教授が蒐集した1000点以上の文献のリストを作成し、これもHPで公開した。また、スリランカでの現地調査は、後期パーリ文献(例えば、ラサヴァーヒニー)に登場する地名、寺院の位置関係について、それが、古いパーリアッタカターや、さらにそれが基づいた古いシンハラ語伝承にかなり正確に一致していること、寺院内の壁画からは、正当パーリ聖典およびアッタカター以外の、北伝仏教の影響が明らかな説話が描かれていること、また今年度は、これまで入ることができなかった、東南部の仏教遺跡の調査により、さらに、中世に描かれた壁画、寺院建築(例としては、アリヤヴァンサの説法が行われたという、アッタカターの記述が事実であったことが確かめられる建物の基壇の碑文)を実見することができた。スリランカの上座仏教(パーリ仏教)の歴史上中世期は特に著作活動が盛んであり、また南インド、ミャンマリ、タイや、さらにはチベットとも交流があり、これまでに出来上がった南方の保守的上座仏教と、北方の進歩派大乗仏教をともすると峻別する今日の仏教学の通念は見直さされるべき実態があったことがわかり、今後の仏教研究において、さらに中世シンハラ語仏教文献の研究の重要性を解明することができた。
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