研究課題/領域番号 |
21320026
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾崎 彰宏 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (80160844)
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研究分担者 |
芳賀 京子 東北大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (80421840)
幸福 輝 独立行政法人国立美術館, 学芸課, 上級主任研究員 (00150045)
元木 幸一 山形大学, 人文学部, 教授 (10125669)
森 雅彦 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (90137612)
深谷 訓子 尾道大学, 芸術文化学部, 准教授 (30433379)
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キーワード | ネーデルラント / マンデル / 『絵画の書』 / 「北方画家列伝」 / 聖と俗 / イタリア / ドイツ / スペイン |
研究概要 |
平成23年度の研究では、15世紀から17世紀にいたるアルプス以北の美術を研究するにあたって基本文献となっているにもかかわらず、日本においてはごく僅かの部分訳にとどまっているマンデル著『北方画家列伝』の全訳並びに訳註の完成を最大の目標とした。オランダ語テクストの解釈の困難さがあり、当初の計画より1年遅れたが、平成23年度の研究成果として訳文の一通りの完成を見た。『北方画家列伝」は、たんなる画家の伝記の集合体ではなく、イタリアの画家伝を集めた『美術家列伝』の著者ヴァザーリを強く意識して、ネーデルラントの画家がイタリアに対抗できるようにその配列や特徴について十分な配慮がなされていた。たとえば「ホルツィウス伝」では「線描芸術」(teykenconst)や「着想/創意」(inventie)などの用語の使用法において、イタリア絵画とネーデルラント絵画ではいちじるしい違いを浮彫にしてくれた。ネーデルラントでは、線描芸術にはイタリアで含まれなかったエングレーヴィングも対象になっており、版画芸術の独自性が高く評価されている。さらには、複数の様式を使い分ける画家を高く評価するなど、ネーデルラント絵画の独自性が随所に鏤められている。また、マンデルの『列伝』には、画家の情報や彼の美学にとどまらず、多数の美術愛好家とその収集についても触れられていて、美術作品の評価のされ方やマーケットの発達など、北方美術の受容に関する考察を進める上で欠かせない情報が満載されていた。こうした新知見が、翻訳作業によって明らかになってきた。今後、翻訳原稿の刊行に向けて研究の精度を高めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度研究実施計画に記載されたマンデル著『北方画家列伝』の翻訳が完了した。この翻訳研究の遂行とともに、マンデルが『絵画の書』を執筆するにいたったプロセスについて大筋で検討を完了することができた。その結果、マンデルの『絵画の書』は、イタリアの美術論であるヴァザーリの『美術家列伝』に多くを負っていることがあらためて確認できた。この点は大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、マンデルの『北方画家列伝』の翻訳・訳註などの完成を期し、次年度の科学研究費の出版助成金を申請することをめざす。あわせて、17世紀初頭における美術コレクターの状況、作品の点在状況等々、ネーデルラント絵画のおかれていた歴史的な場面を復元していきたい。そのための基礎作業をおこなえる状態になったことは、極めて重要である。日本においてマンデルのような基礎資料にもとづき、北方美術の総合的な研究を遂行しているのは、本科研費のチームだけであるだけにこの研究を完遂したい。
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