研究課題/領域番号 |
21320028
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 俊春 京都大学, 文学研究科, 教授 (60198223)
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研究分担者 |
根立 研介 京都大学, 文学研究科, 教授 (10303794)
平川 佳世 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10340762)
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キーワード | 美術史 / 芸術諸学 / 工房 / 共同制作 / 競争 / アカデミー / 美術教育 / 徒弟修業 |
研究概要 |
過去2年間の研究では、主として工房の内側での活動に着目し、工房における若い画家の教育システム、工房の親方が工房の助手を雇用して絵画を制作するシステム、などについて検討してきた。それに対し、今年度は、独立した工房を構える親方同士の間での共同制作の問題や、工房の親方のもとを去って独立して活動を行うようになった画家が、その後、かつての師としての親方とどのような関係を結ぶことになるのかなど、本研究が取り組むべきもう一つの重要な課題である、工房の「外」の問題についての研究に取り組んだ。加えて、工房が、子供、孫などの血縁者、あるいは弟子など、より若い世代の芸術家へとどのように引き継がれていったのかという、工房の継承の問題についても考察した。 工房の親方同士による共同制作の問題に関しては、この種の共同制作がさかんに行われた17世紀フランドル派を取り上げて、ルーベンスが他の親方画家とどのような共同制作を行ったのかを検討した。人物画家であるルーベンスが、このような共同制作を行ったのは、静物画家、動物画家、風景画家などの他のジャンルの専門画家とであり、基本的には、ルーベンスと作品の受注をめぐって競合しない画家たちであった点が注目される。一方、ルーベンスと同じく人物画家であったヴァン・ダイクの場合には、この種の対等に近い立場での共同制作はあり得なかったことが明らかになった。 また、独立した画家として活動する、かつて師弟関係にあった、2人の画家の関係性については、フランス新古典主義のダヴィッドとジロデをモデル・ケースとして検討した。その結果、この種の相互関係の問題の考察には、贈与論からのアプローチが有効であることが明らかとなった。そして、工房の継承の問題に関しては、特に工房で引き継がれる、画題と様式に着目して、宗達・宗達派についての検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本共同研究のテーマが、前近代の芸術家の問題を考える上で非常に重要な工房の問題であるため、研究に参加しているメンバーの関心も高く、研究は非常に順調に進展している。また、中村は、昨年、ヴァン・ダイクとルーベンスとの関係を考察する上で非常に重要な、長らく所蔵先不明とされていたヴァン・ダイクの作品を発見するという、予期せぬ幸運にも恵まれた(論考を発表予定)。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、最終年度であるので、芸術家工房を「内」と「外」の両面から考察した研究を完成させる。そのために、公開の研究会を数回開催して、研究計画に参加している者全員が、各自の研究成果を発表し、意見交換を行う。そして、それを踏まえて各自が論文を執筆して、論文集にまとめる(pdfファイル化してweb上に公開予定)。また、研究代表者の中村は、研究成果の一端を一般に公開するために、「ルーベンスと共同制作者」をテーマとする展覧会の準備に取り組む。展覧会は、順調に準備が進めば、2013年春に開催の予定である。
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