研究課題/領域番号 |
21320040
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
高橋 悟 京都市立芸術大学, 美術学部, 准教授 (30515515)
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研究分担者 |
井上 明彦 京都市立芸術大学, 美術学部, 准教授 (30232523)
石原 友明 京都市立芸術大学, 美術学部, 准教授 (60315926)
中原 浩大 京都市立芸術大学, 美術学部, 准教授 (10326184)
中橋 克成 京都市立芸術大学, 美術学部, 教授 (60309044)
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キーワード | 芸術諸学 / 脳科学 / 医療 / 生命哲学 / 環境工学 / 感性学 / デザイン / 発達障害 |
研究概要 |
本年度は、人間というconditionとその経験の成り立ちについて、芸術・医療・脳神経科学融合領域という独自の観点から捉え直す事で、新たな人間観(身体・感覚・健康)に基づく表現論理の基盤を探った。過去三年間に渡り、我々は、京都大学人間健康科学科と、動作、移動といった身体感覚と、言葉、イメージなどが結び付く、一連の「知的思考の連鎖」の要因の抽出について、モバイル型NIRS(脳血流計測機器)と独自に開発した直径8mの二重軸回転装置を用いた調査・実験・制作を進めてきた。本年度は、建築・庭園・劇場の構造・配置の分析に基づき、「自己・身体・環境の相互作用とそれが情動反応・知覚□感覚・自己定位さらに高次認知作用に及ぼす影響関係」に着目した実験・試作を進めた。また、建築・庭園・劇場の構造・配置と身体・認知・情動反応の関係分析に基づいた検証を行うことで、それらを「三次元空間に於ける記譜」と捉え、イメージ・身体・記憶との空間の関係、時間軸による動作の組み立てや、回遊式庭園での飛び石上を歩く身体の動き、伝統芸能の作法に関する考察などとも連動した実験へと展開した。これらの検証から、我々は、被験者の予測を絶えず裏切る微妙な運動による体性感覚の変化と環境に於ける近傍の関係が自己の定位を失った動揺状況を生成すると同時に、行動のシーケンスの組み立て直しによる回路の生成過程や、創造的経験に本質的なものである関係性に向け開かれた状況に繋がるという見解を得た。実際の計測に於いては、ヒトの行為の模倣や共感に関わるとされているミラーニューロンのひとつである、STS(上側頭溝)部位の反応が注目されたが、これは、平行して進めている認知症や高機能発達障害の知覚・情動・表現の臨床的研究とも関連することが予測される。従来の健常者の視点を中心に構築されてきた知覚・表現論理に対して、この「セルフの揺らぎ」を環境への創造的な応答として捉えることで、あらたな人間・健康概念にもとづく芸術表現のモデルが可能になると推論するに至った。
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