本年度は、本研究に携わっている研究者個々の個別テーマに即した問題意識を、具体的な典籍を事例としつつ、書写と書写環境の関係について、より先鋭化した形での議論を展開すべく、研究会を1回開催した(8/26、於:埼玉大学・東京ステーションカレッジ)。一方、前年度までの研究成果を、いくつかの論文を公表することで示すことが出来た。 具体的な成果を二点掲出する。 (1)武井和人「十市遠忠『春日社詠三十首和歌』攷」(『國語國文』2011・8) 該書は、十市遠忠が天文3年3月、春日社に奉納すべく詠出した三十首及び夢想三十一首である。遠忠自筆である新出資料。この詠草の草稿が尊経閣文庫蔵『詠草中書』に収められており、両書を比較対照することで、自筆本における推敲過程が析出出来、またそれが書写環境と密接な関連性を有することを論じたもの。査読付論文。 (2)武井和人「三田葆光『櫨紅葉』攷-刊本と稿本-」(『研究と資料』65、2011・7) 該書は、三田佶筆・黒川真道書入からなる『(三田葆光著)櫨紅葉』。新出資料。三田葆光著『櫨紅葉』(私家版、明治45・6刊)の稿本に相当する。他撰本私家集がどのように作られて行くのか、その裏事情を知りうる貴重な資料。稿本が如何に編集されて刊本に至るか、という経緯を如実に知りうる。
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