研究課題
3年間にわたる本研究は、近代からモダニズムの時代に至るアイルランド小説の本質を、「亡霊」の表出に着目することで明確にすることを目的としている。このため平成21年度は、「ゴシックの伝統と近代小説」を主題とし、まずは18世紀から19世紀までのゴシック小説の系譜を辿り直すことを計画した。具体的には、(1)Horace WalpoleやAnn Radcliffeら18世紀イギリス・ゴシックの作家たちを再評価し、(2)ゴシックの伝統をC.R.MaturinやJ.S.Le Fanuら19世紀のアングロ=アイリッシュ作家たちがどのように継承・発展させたか、そして(3)この系譜のなかでアイルランドがどのように表象されてきたか、に焦点を絞った。(1)については吉川信が担当し、群馬大学紀要に成果を掲載した。WalpoleからRadcliffeに至る系譜上には、多くの先行研究によって分類・精査されてきたterrorとhorrorの特性のみならず、melancholyという心性が極めてポジティヴなものとして浮かび上がる。この心性の如何によって主人公の感受性の強度が測られている点は、あらたな発見であった。この心性はおそらく、19世紀末フロイトの登場によって今一度問題視され、ネガティヴな病理に変貌するものと考えられる。(2)のLe Fanuについては戸田勉が担当し、この作家を20世紀のJames Joyceがどのように理解・応用して行ったかを、本科研の研究集会において口頭発表した。桃尾美佳は、招聘講演を含む複数の機会において、Le Fanuから20世紀の作家Elizabeth Bowenにまで視野を広げ、彼らアングロ=アイリッシュのジレンマ、入植者・支配層であるゆえの「合法性」への不安が、現代まで陰を落としている点を明らかにした。(3)については、研究集会での口頭発表において、河原真也と大島由紀夫が、「怪物」という表象た注目し、Mary ShelleyがFrankensteinにおいて描き出した「怪物」性が、おもに19世紀、アイルランド独立運動の志士たちを「暴徒」として思い描く、宗主国の側からのアイルランド人表象に、大きく作用している点を明らかにした。
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群馬大学教育学部紀要(人文・社会科学編) 59
ページ: 77-87
東京海洋大学研究報告 6
ページ: 25-32
日本独文学会研究叢書066プラハとダブリン-20世紀ヨーロッパ文学における二つのトポス-(吉川信「薔薇の外部-初期イェイツの象徴をめぐって-」、「あとがき」、戸田勉「ジョイスとユダヤ人」)(日本独文学会)
ページ: 76(吉川2-14, 75-76, 戸田25-32)
アイルランド-もうひとつの島国『21世紀イギリス文化を知る事典』所収(出口保夫他編)(東京書籍)
ページ: 830(河原76-89)