当該年度の主な成果は次の通りである。 1、平成21年度に慶應義塾大学図書館の協力を得て作成した、ポール・ヴァレリー晩年の恋愛書簡詩『コロニラ』高精細デジタル画像データを基に、田上、大出の2名で校訂作業を実施し、草稿の活字版をほぼ完成した。加えて草稿の日付、物的状態(形、色、大きさ、紙質など)について詳細な記録を取った。 2、上記のように作成された活字版『コロニラ』を底本とし、主に研究協力者の立仙順朗と田中淳一が翻訳作業を行った。基本的に資料はプライベートな内容のため、一部文脈が読み取りづらく、翻訳困難であるものもあるが、100篇以上の詩については翻訳を完了した。この訳業については、近年中に『コロニラ』抄訳として公刊の予定である。 3、田上がフランス、パリのフランス国立図書館および、セットのヴァレリー博物館にて資料調査を行い、『コロニラ』と密接に関連するジャン・ヴォワリエ夫人宛て書簡、および同時代の代表的作品『わがファウスト』草稿について、解読、筆写作業を行った。いずれも『コロニラ』の細部の文脈を理解するうえで大きな助けとなった。 4、関連して、大出がヴァレリーの文学上の師であるステファヌ・マラルメについて研究を進め、2013年3月16日と17日に、慶應義塾大学日吉来往舎シンポジウム・スペースにて「マラルメは現在......」というシンポジウムを主催した。このシンポジウムは直接的には大出が取得した別課題の文科省科研費(基盤C)によるものであるが、当該ヴァレリー研究に対しても大きな示唆を与える講演、発表に接する機会となった。
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