研究課題
発話意図理解の発達が以下のような4種類の重復しつつも異なる神経系の発達に依存していると仮定し、定型発達児や自閉症、学習障害、注意欠陥/多動性障害を持つ小学生を対象に音声から発話意図を理解する能力を調べた。4種類の神経系は1) 情動音声処理系、2) ミラーニューロン系、3) 心の理論系、4) 言語論理的推論系であり、後者ほど成熟が遅いと考えると、文脈から論理的に推論しなければならない発話意図理解が最も難しく、文脈の無い条件下で言語的意味と一致するプロソディを持った音声表現からの発話意図理解が最も早く成熟することになる。言語的意味と一致する発話意図を持つ音声表現や矛盾する音声表現に対する発話意図理解を単文課題で、文脈と矛盾する音声表現や比喩的音声表現に対する発話意図理解を物語課題で計測した。その結果、定型発達児では単文課題の一致表現、矛盾表現、物語課題の比喩表現、皮肉表現の順に正答率は有意に低下した。文脈を明示した課題の方が成績は低下した。言語的意味と発話意図とが矛盾する単文音声表現に対する自閉症児の正答率は対象群に比べて有意に低かった。このような発達傾向は脳における4種類の情報処理系の発達と関連する可能性を示唆する。今年度はさらに小学生児童が発話意図を判断する際における、発話に含まれる言語的意味内容と韻律情報の統合に関する脳活動を明らかにするため、発話意図判断時の脳活動を、小学1年生と4年生を対象に、近赤外分光法脳機能測定装置を用いて測定した。ボタン押しによる行動成績をみると、小学4年生は一致条件と不一致条件間で有意差はなかったものの、小学1年生では一致条件に比べて不一致条件での正答率が有意に低かった。この結果は、先行研究(Imaizumi et al.、2009)と合致しており、小学1年生から小学4年生にかけて、皮肉や冗談音声の理解が進むことが示された。脳活動に関して、小学1年生では、一致条件に比べて不一致条件で、右背内側前頭前野でオキシヘモグロビン変化量が有意に増大する測定チャネルが存在し、小学4年生では、左下前頭回の測定チャネルで、一致条件に比べて不一致条件で反応が増大していた。この学年間の脳反応差異が、行動成績の差異を反映していると考えられ、発話に含まれる言語的意味内容と韻律情報の統合に関して、下前頭回領域が関与していることが示唆された。今後は、幼稚園児やコミュニケーション障害児の脳活動を測定し、コミュニケーション障害に関連する脳機能やその発達過程を明らかにして、新たな発話意図理解のスクリーニングシステムの構築を目指す。
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