研究概要 |
本研究では,言語系統の異なる4言語の言語リズムとタイミング研究について,個別言語の韻律の3大要素(長さ・ピッチ・音圧)の音響特徴量を定量的に計算し,その結果を統計的に処理し相関を見る手法をとる.当該年度の研究においては,日本語・英語を中心として参考に中国語も含め音声医学分野も視野に入れた韻律実験を行った.まず,言語リズムと呼吸制御(胸筋と腹筋)と音声信号がどのように関係するか医療用ストランゲージを用い日本語話者・英語話者・中国語話者を測定し音声信号との相関を観察した.結果,英語話者は英語発話時には,強弱(強勢)と呼吸波が規則的に観測された.日本語話者は英語発話でも日本語発話時に見られるように,強弱も呼吸波も弱かった.他方,英語話者は日本語発話時では日本語話者に似た波形,中国語話者は日本語や英語の発話時には,英語話者や日本語話者に似た波形を算出した.この結果,英語話者や中国語話者は日本語話者よりも腹筋と胸筋を母語においてより大きく使っていてその制御は外国語学習にも役だっている可能性が示唆された.次に,英語アクセントの日本語話者による2音節語の生成実験では,英語話者はピッチと音圧の上昇下降がほぼ平行しているが,日本語話者は必ずしも一致していないことが明らかになった.これは申請者の日本語の韻律制御実験でも観察されたことから,母語の影響が出ている可能性が示唆される.また,3種(第一,第二,弱)のアクセントを含む英語2~4音節語のアクセント同定実験では,日本語を母語とする学習者は全体に回答率が低かった.3音節語と4音節語の回答率が更に低い(ほぼ同率)結果が出た.英語アクセントは強弱という2項対立でなく更に複雑でそれが学習者にとって知覚を困難にさせている要因となっていることが分かる.さらに,日本語撥音の異音を含む語彙レベルの時間制御生成実験においては,中国語話者が日本語話者および英語話者よりモーラの等時性の近似を示した.ただし,異音の短長弁別生成実験では,日本語話者が一番モーラの等時性を示した.以上から明らかになったことは,韻律の各要素の制御は言語間話者により異なっていること,更に韻律の制御は呼吸メカニズムとも関係しそれが各言語リズムを生みだしていることである。
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