研究概要 |
本研究課題は、母語話者による日本語の漸増的文処理(文が終わるのを待たず入力をどんどん処理していくこと)において、作業記憶への負荷となる条件を行動実験及び電気生理学的実験により検証することにより、文理解のメカニズムの解明を目指すものである。2009年度は主に予備実験を行った。(1)19チャンネルデジタル脳波計を用いた電気刺激についての予備実験に加え、構文の構造認定に関わる期待値の定量化実験として、言語処理時の事象関連電位(以下,ERPと呼ぶ)を漢字と読みの照合という言語処理過程で観察した。結果は現在分析中だが、これにより,構文認定の関わるERPに混在する形態素解析に起因したERPの成分を把握する一助が期待できる(前田)。(2)否定対極表現「シカ…ナイ」を含む構文において、「シカ」の出現から「ナイ」の出現までに随伴陰性変動(CNV)が観察できるかを検査するため、どのような刺激文と実験パラダイムを組み合わせれば良いかについて綿密な計画を立て、180の刺激文を構築した。現在予備実験中である(中谷・前田・小野)。(3)疑問名詞句「誰が」に対応する疑問終助詞「か」の処理が距離要因の影響下にあるか、行動実験(自己制御読文実験)によって検証した(n=52)。具体的には、二重の節の埋め込みのある文[S1[S2[S3]]]のS2の主語位置に「誰が」を置き、(i)「か」をS2またはS1に置くことによる距離要因と(ii)「誰が」のかき混ぜによる距離要因の効果を測定したところ、ともに主効果が観察された。これ自体は新しい発見だが、同時にMiyamoto & Takahashi(2002)などの先行研究で報告されているタイピング不一致の効果が逆方向に観察された。この、先行研究に反する結果が検査構文の特性に起因するのか、他のノイズによるものなのか、先行研究の追試も含め、原因を探る必要があり、次年度の課題となる(中谷・小野)。
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