研究概要 |
本研究課題は、母語話者による日本語の漸増的文処理(文が終わるのを待たず入力をどんどん処理していくこと)において、作業記憶への負荷となる条件を行動実験及び電気生理学的実験により検証することにより、文理解のメカニズムの解明を目指すものである。2011年度は主として三つの研究を行った。(1)電気生理学的実験では、文処理時に作動する作業記憶に関わる脳内現象として事象関連電位に着目し、文脈認知時に作動する作業記憶の脳内現象を反映していると考えられる随伴性陰性変動(CNV)を計測し評価・分析を行った。「~しか~ない」、「~は~である(でない)」、「~だけが~である(でない)」の比較・分析では、「~は~である(でない)」、「~だけが~である(でない)」、「~しか~ない」の順に随伴性陰性変動が大きいことが明らかになった。このことは、Levyなどの蓋然性に基づく作業記憶配分の理論の予測とは逆に、「~しか~ない」のように主語と述語の否定形に義務的な共起関係がある構文(つまり蓋然性が非常に高い構文)ではその他のものより作業記憶の配分が少ない可能性が示唆する。(2)行動実験(自己制御読文)では、まず「シカナイ」構文の距離効果の追試実験および距離を構成する要素の「構造」の効果を検証する実験が行われた。シカナイの距離効果が再現された他、ガ~ナイ構文でも距離の効果が見られたが、より詳細な検証が必要である。(3)「どの」疑問詞処理の距離効果の実験が行われた。「誰」と比べ「どの」では距離効果が弱く、タイプミスマッチ効果(Miyamoto & Takahashi, 2002)が強かった。これは、D-linked(Pesetsky, 1987)であるWhich句が作業記憶においてWh句よりも強く活性化している可能性を示唆する。
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