研究課題/領域番号 |
21320140
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
常見 信代 北海学園大学, 人文学部, 教授 (30258694)
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研究分担者 |
鶴島 博和 熊本大学, 教育学部, 教授 (20188642)
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キーワード | ブリテン諸島 / 中世史 / 教会組織 |
研究概要 |
本研究は、ポスト・ローマ期からラテン的キリスト教世界が確立する「グレゴリウス改革」までの時期を対象に、ブリテン諸島の教会組織について、2つの問題を中心に従来の研究の見直しを行い、ブリテン諸島の教会史をひとつの関係性をもった歴史的単位として解明することを目的としている。このうち第1の問題、「10世紀以前のブリテン諸島の教会組織について、イングランドとそれ以外の所謂「ケルト圏」どの相違が強調されてきたが、この問題について史料論と空間論の視点で見直す」については、平成21年度-22年度においてイングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズについての調査を終え、平成22年3月にその成果を中間報告として学術雑誌に投稿した。 平成23年度は、研究実施計画に基づいて上記の第2の問題、「10世紀から11世紀のイングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズにおける司教区のありかたや教区の構造について史料と研究史の整理を行う」ことを中心に、下記のとおりに研究を進めた。 (1)5月に上智大学において第1回の研究集会を行い、代表者常見信代と分担者鶴島博和による基調報告を行って23年度の研究の方向性を確認した。 (2)8月に約2週間の日程でイングランドとウェールズの「ミンスター教会」跡地を巡検し、その立地条件、教会建築様式、その後の司教区、教区との関係などを検証した。 (3)12月に熊本において第2回の研究集会を行い、研究分担に従ってその成果を下記の通り報告した。 常見信代「スコットランドにおける初期教会と司教区・教区」 鶴島博和「初期ミンスター教会の構造」 森下園「イーリー修道院からイーリー司教座大聖堂へ-『イーリーの書』が語るもの」 梁川洋子「中世グウィネッズにおける教区境界と村境界の成立」 田付秋子「アイルランド南部の初期教会ディングル半島の事例」 〔連携研究者〕森下園イングランドの修道院制度担当
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に書いたように、本研究の2つの課題のうち1つ「10世紀以前のブリテン諸島の教会組織について史料論と空間論の視点で見直す」については、22年度末に一応の研究成果をまとめ学術雑誌に投稿した。平成23年度は、第2の課題「10-11世紀のブリテン諸島における司教区・教区のあり方」について、史料と研究史を整理し、報告することに専念した。今年度はこれを継続して研究を進め、論文集にまとめる予定である。いずれの研究対象も、史料がきわめて限られているが、実地調査を行うことでかなりの具体像を描くことができた。よって、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
ブリテン諸島では、10世紀から11世紀のイングランドにおいて、また、11世紀-12世紀のスコットランドにおいて、統合王権のもとで教会の民というキリスト教ネイションの発達がみられ、それがやがて近代につながる国民的ネイションへと発展したが、アイルランドとウェールズはそのような展開は頓挫した。従来は、この発展の相違をイングランドと「ケルト圏」というエスニシティ概念で説明してきたが、本研究課題の遂行によって、こうした相違の根底にあるのは司教区のあり方や教区の構造の相違であることが明らかになった。今後は、ブリテン諸島の教会組織の研究から、キリスト教ネイションと国民的ネイションの相関性へとテーマを発展させていきたい。
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