平成22年度は、当科学研究費による初年度(平成21年)の下北半島・尻労安部洞窟発掘の調査成果、及びその後研究室に持ち帰った土壌サンプル水洗選別の処理の結果を受け、旧石器時代のナイフ形石器と重要な動物骨が出土した第3段階最下層(15層)の発掘面積の拡張を最大の目的と定め、その具体的方法の検討を、6月より開始した。 これに基づき7月下旬に遺跡現地に赴き、安全でより効果的な発掘の諸準備を行い、8月1日より調査を開始した。15層は旧地表面から約4メートルの深さにあり、調査は困難を極めたが、結果的には約2週間の掘削によって、合計12グリッド分(12m^2)を調査でき、大型および小型獣を含む前年度より豊富な動物遺存体を検出することに成功した。これによって、人類による狩猟活動の結果を示す痕跡が、より明確になり、石器などの文化遺物の追加資料は得られなかったものの、本洞窟遺跡の旧石器時代研究上の価値は、より高いものとなった。 また、旧石器時代当時の居住・占地環境の復元に向け、本洞窟のここ数万年間にわたる形成史を視野に入れたサンプリングが開始できた。このように、土壌学・堆積学的調査による旧石器時代洞窟遺跡研究の本格化に踏み込むことができた点も大きな成果であるといえる。
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