研究概要 |
縄文草創期の遺物包含層と泥炭層の探査を主目的として、昨年度に続き新潟県津南町卯ノ木泥炭層遺跡の発掘調査を行い、古環境と生業復元の資料となる植物遺体群集、土壌、年代測定試料、考古遺物を採取した。調査後に出土資料の分析・整理作業を分担して進め、平成23年2月に國學院大學で年次報告会を開催し研究成果を公開した。 層位対比と放射性炭素年代測定の結果、形成時期の異なる5群以上の泥炭層とその層位関係・年代を把握することができた。また各層から出土した木材・種子種実・花粉化石の分析により、更新世終末期から完新世にかけての古植生の変遷過程を詳しく把握することができた。大型植物化石の組成から見ると、最下部層(11,590BP)には、トウヒ・バラモミ類などの針葉樹とタラノキ・ニワトコなどの低木類が見られ、針広混交林の様相を示している。次の下部泥炭層(11,170~11,290BP)の時期には、付近はヤチダモの湿地林に覆われ、周辺にはコナラ亜属・ダケカンバ・サワシバ・カエデ属などの落葉広葉樹林が広がっていたと推定される。次の中部泥炭層(8400BP)では、ヤチダモ・キハダ・サワグルミなどの湿地林とチシマザサの群落が推定される。最も多くの植物化石が出土した上部泥炭層(5,120~6,170BP)では、谷底にサワグルミが優占し、その周囲にヤチダモ・キハダ・オニグルミなどの河畔林が分布し、谷斜面にはブナ林とヤマグワ・コウゾ・ニワトコなどの低木、マタタビ・フジなどのつる植物などが繁茂していた様子が復元される。考古遺物ではA区シルト層から縄文後期末の中ノ沢式土器がまとまって出土し、その上に堆積する泥炭層が縄文晩期以降のものである点が判明した。 これらの研究成果は、縄文草創期から晩期以降にかけての遺跡周辺の古植生・景観・堆積環境と人間の生活実態を知るための詳細なデータとなる。
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