本研究は、土器製作者の個人同定法の確立、方法のさらなる開発・改善、実資料への応用による考古学的に高次な問題の解明等を目的とするものである。 複雑な工具痕等のマッチングのために三次元レーザースキャナを導入し、3D形状計測と三次元的マッチングを製作実験品や民族資料、弥生土器・須恵器などに適用した。この種の研究に実用できるとともに、押型文など縄文土器にも応用可能であることが確認できた。ハケメについては印象材による高精度レプリカ法と精細断面画像の取得がマッチングに有効であることを既に確認しているが、その技術の精度等についても検討を行った。こうした検討の結果、同一工具痕等のマッチング・評定に両法の実用性と有効性が確認されたことは、従来同定に困難な面があったタタキ痕(叩き目)など、多くの痕跡を対象とすることが可能になったということができ、多くの土器へ拡張して適用できることを示す意義ある成果と考えている。 また、これらに加え、工具痕の観察による工具の運動方向など製作者の身体技法に着目した検討や、蛍光X線分析装置を用いた胎土分析による胎土の一致度の検討、民族誌的検討などといった多角的視点からの検討を行うことも本研究の特徴であるが、実践の結果、多角的検討が有効であることが示された。このことは、器形の類似や工具痕の一致という単純な指標を超えて、より確度の高い個人同定法の確立にとって大きな進展となると同時に、今後、個人間での工具の共有などの問題の解決や、製作者間の社会的関係の推定などへと検討を進めるための重要なステップとなったと考える。
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