工芸は、世界各地で住民の生活に役立てられてきたために、豊かな地域的な変異と長い伝統をもっており、古くから人類学の研究課題となり、物質的文化研究の重要な一部であった。しかし、かえって各地方の生態や生活のあり方を反映するその豊かな地域性、それぞれの固有文化とかかわる独自の造形や意味付与、長大な伝統と歴史性は、工芸を扱いにくい課題としてきたことは確かである。本研究は、こうした多面的な工芸を、以下のような観点から研究調査し、現在における新しい工芸の人類学的研究を樹立することを目指している。(1)グローバル化の著しい今日の世界において、豊かな地域性や文化固有性、歴史性をもつ工芸が、どのように変容し、生き残ったり絶滅したり、逆に大きく販路を増やしたりしているかを調査する。とくに、ツーリズムとの関係にも注目する。このことによって、工芸の適応的変化や旧守性の意味の把握をおこなう。(2)さらにコモディティとして特異な運動をする工芸を手がかりにして、グローバル化する経済の特異な経済事象の分析のための視座を考える。手づくり、稀少性、極度な地域限定性といったコモディティとして、グローバル化しにくい性格をもっている工芸のもっている可能性を考える。一方においては、工芸品のアート化がおこるといったような、真性性や創造性をめぐるダイナミズムが研究される。(3)さらに、これらの研究遂行過程における資料の蓄積と公開によって、困難な現状に直面している日本やアジアの工芸のための知的サポートをおこなうことが可能になるものと考えられる。今年度は、南アジアのネパール、カトマンドゥ盆地での調査をおこない、その一部分は論文にまとめた。
|