研究課題/領域番号 |
21320163
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松井 健 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (50109063)
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キーワード | 工芸 / グローバリゼーション / 生産 / 流通 / 消費 / ツーリズム |
研究概要 |
平成23年度には、海外においては東アジアの台湾、韓国の工芸の現状の調査をおこなった。両国ともに、工芸生産は大きく二つの傾向に分岐して展開している。まず第一に、多くの観光客(国内外の)のために、スーベニアとしての工芸の生産があげられる。まったく新しい工芸の生産はこの分野ではまれで、むしろ、伝統的とみなされている工芸品を今日的嗜好にあわせたり、運搬持ち運びが容易なように改変したりしてスーベニアにする方向性が顕著である。第二には、既存の工芸品が手仕事生産で少数つくられ、かえって、こわれやすかったり、高価であるにもかかわらず、その美的な評価や、伝統的な機能についての高い評価などのために、消費者に求められていて、生産が続けられているという場合がある。この類型の工芸生産は、軽便で経済的である以上に、生活の質や工芸品としての品位などを評価する中流以上の経済力をもつ社会層によって支持されている。 両方の工芸の生産は、ともに、とくに地理的に近い中国本土においてつくられる工芸品の輸入によって、大きな影響を受けている。とくに、第一の類型においては、手づくり工芸品とみえるものの多くは、中国大陸の安い労働力によってつくられており、価格面で台湾、韓国の本来の手づくり品は競争できない状況にある。第二の類型においては、その影響はむしろ小さいとはいえ、それでも類似品としての中国大陸産の工芸品は価格面で大きな競合相手となっている。たとえば、通常の消費者が簡単に判断できない原材料の違いなどは、価格からだけで判断されやすい。明らかに、きわめて具体的なかたちをとっているグローバリゼーションと工芸の問題をフィールド調査でみることができる。中国大陸は、台湾と韓国に隣接しており、生態条件の類似から同じような原材料がえやすく(ときにはより良質な)、安価な労働力によって手づくり工芸品が生産可能である。とくに、ツーリズムの発展によって、これらの工芸スーベニアのグローバル化が加速しているといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年夏に研究者代表が入院手術をおこなったため、フィールド調査に遅滞が生じたが、平成24年度に繰り越した研究費によって、台湾と韓国において予定していたとおりのフィールド調査を実施して相当の成果をあげ、交付申請書に記載した「研究の目的」はほぼ達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、アフリカにおける工芸の現状把握とアフリカ関連の工芸の展示や意味づけについての調査をおこなうが、中心の調査地であるエチオピアはメレス首相の急死にもかかわらず安定している。研究代表者の体調は順調に回復しており、問題なく研究を推進できるものと考えている。
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