日本国内の四地域、及びアジア・アフリカの四地域における工芸の生産、流通、消費の状況の概要を把握するフィールド調査をおこない、グローバリゼーションのなかで、日本四地域、世界四地域の工芸がそれぞれに独自のかたちでの存続、拡大、縮小(絶滅)の動態をとっている現状を明らかにすることができた。以下の三点は、とくに重要と思われる。①ツーリズムの隆盛によって、これまでの伝統工芸が従来の用途をもたないスーベニアとして生産、販売される現象が広く観察された。②手工芸的な生産物が大量生産大量消費のなかに呑み込まれている面は確かにあるのだが、かえってその独自性や伝統文化とのかかわりが見直され、通常の工業生産品で同じ機能をもつものがあるにもかかわらず手工芸品が高価で流通していることが認められた。③さらに、グローバリゼーションによって、閉じた小さな市場においては工業生産品のすき間にしか存続しえない商品としての工芸が市場を変えることによって商品として経済的に転生(トランスポジション)し、付加価値を与えられるという現象が目についた。これは、工芸が、普通の食品や電化製品とは違う商品としての「寿命」をもっていることを明らかにした。このような転生と付加価値はグローバリゼーションによって市場が拡大、重層化、輻輳してはじめて生起する状況であることが明らかになった。 新しい「工芸の人類学」という本研究の副題が、ほぼイメージを結ぶに至ったと考える。しかし、工芸のグローバル化した世界におけるダイナミズムが人類学的に経済事象を考えるときに重要と思われる「商品」とか「価格」といった概念に再考の示唆を与えることが明らかになったため、新しく研究ヴィジョンを展開して「商品としての工芸の経済的転生と付加価値の研究」を構想し、採択された(課題番号25284173)。
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