本年度の研究に於いては、主に「立法の合理性保障」に関わる諸論点について、(1)研究代表者と連携研究者、研究協力者、ゲストスピーカー、さらに研究代表者が委員長を務める日本学術会議立法学分科会メンバー相互の間でも、2011年度中に執筆作業と原稿取りまとめを完了させる成果物(ナカニシヤ出版より3巻よりなる共著を刊行予定)を念頭に置いた、情報収集と理論的共同討議を行った。また(2)本共同研究の研究関心から派生する内容を持つ成果物の公刊を行った。(1)については、主にはゲストスピーカーとして慶應義塾大学の亀井源太郎氏、名古屋大学の中東正文氏、東京大学の川人貞文氏を招き、各氏の報告を踏まえて共同討議を行った。亀井氏は、現在の刑事立法の活性化に対しその歴史的経緯を踏まえた批判的考察と、特に裁判員制度の成立がもたらす刑法学の変容の行方を展望する報告を行った。中東氏は会社法制の変遷における立法のプロセスのあり方や、そこで所轄官庁、学界、経済界、諸外国などの各アクター間の力学がいかに作用してきたかを明らかにした。川人氏はいわゆるねじれ国会における合意形成の困難の原因を、修正合意・否決・再議決にかかる与野党のコスト・ベネフィットに注目して分析した。 (2)については、まず『人権論の再定位』全5巻の刊行が挙げられる。本シリーズの第5巻は研究代表者が編集を行っており、また連携研究者のうち第2巻には吉良、大屋、大江、浦山が、第5巻には瀧川、稲田、米村、安藤、井上達夫が寄稿している。内容的にも現共同研究における議論内容が含まれている。次に連携研究者の安藤、浦山、大屋、谷口は中野剛志編『成長なき時代の「国家」を構想する』に寄稿した。こちらも望ましい立法構想の基礎をなす幸福と福利と功利の概念分析、移民問題や外国人労働者受け入れ問題における世界正義と国内正義の相関の再検討、そして特に現在の日本のコミュニティの崩壊を踏まえて「共同体論」の再評価する方途をさぐる議論など、立法の正統性・合理性保障に関わる法概念論、正義論上の問題、および立法政策上の諸論点を取り扱うている。さらに連携研究者の橋本は単著『自由の社会学』のなかでアーキテクチャ論の批判的検討を行い、安藤は制度の規範的正当化に関わって、規範の行為指導性のあり方を自然犯型と法定犯型に分けて検討する論考を、松本は環境法における予防原則に基づきリスク社会論における「予防」との異同を明らかにする論考を、横濱は遵法義務論を網羅的に扱う連載論文の第2回から第6回最終回分をそれぞれ雑誌に掲載した。
|