本研究の目的は、急激なグローバル化の進展の中で、一部の研究者が問題視するようになった「民主主義の劣化」という問題を、憲法学の立場から理論的かつ実証的に研究した上で、理論的かつ実践的な対応策を構想しようとする点にある。本研究では、比較憲法的な研究方法を駆使して、「民主主義の危機」に関する事実認識と規範的評価の是非を明らかにし、その上で、民主主義に関する原理論レベルの研究と、主要国の民主主義の実態に関する比較憲法的研究を通じて、現代民主主義の「危機」の原因を究明し、その上で、「民主主義の再創造」に向けた理論的かつ実践的な提言を行うことを課題とする。 そこで、平成22年度も、合宿研究会を年2回開催して、全国から連携研究者を集め、各国憲法の状況や理論動向に関する報告と検討を行った。具体的には、比較憲法研究として、アメリカ、イギリス、フランスについての検討を行い、課題ごとの研究として、教育、大学の自治、監視社会等を取り上げた。また、「民主主義の危機」という問題を比較憲法的に研究することの意義と課題に関する方法論的報告とそれに基づく検討も行われた。 研究代表者の本は以上の共同研究の企画・指揮する一方、その研究成果を踏まえて、個人研究としては、日本の「民主主義の危機」に関わる2つの論点(日米安保体制と「政治主導」の問題)について、論文の公表と学会報告を行った。研究分担者である愛敬は、個別課題として「リスク社会」における民主主義のあり方を考察する論文を公表したほか、憲法学・法哲学・政治理論のそれぞれの立場から「基本的人権の主体」という問題を考察する書物を編集し、その中で、人権の主体という問題も、現在の民主主義の有様(あるいは人々の評価)との関係で分析・理解することの必要性を明らかにした。
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