平成22年度は、平成21年度に引き続き消費者選択の基礎に関する研究を行った。 1.最終的な消費財の組への選好と、選択の機会の豊かさに関する選好のように、複数の異なる選好ないし評価基準をもつ個人の意思決定について理論的に分析した。とくに、複数の評価基準がそれぞれ選択関数として与えられたとき、これらを結合する3つの異なる方法を提示した。さらに、そのうちの1つの方法について、公理的に特徴づけた。そこで新たに定式化された公理とは、複数の選択関数の選択が重複している場合や、明確に相対立している場合などの単純な状況における自然な選択を表現する公理と、結合された選択関数の限定合理性に関する公理である。 2.消費者が消費財への選好だけでなく、選択機会への選好も有するときの需要理論と厚生評価の理論に関する研究をさらに進めた。消費者が予算集合と財ベクトルのペアに関して選好関係をもつとき、価格の変化に対する需要の変化を代替効果と所得効果の2つに分解するスルツキー恒等式が、標準的な消費者理論と比較して、どのように変わるのかを解明した。 3.消費財への選好に基づく福祉の改善と、選択の機会で表現される権利の保護という2つの要請の間で論理的な対立が生じる可能性を明らかにし、規範的経済学の情報的基礎を再検討した。また、消費財への選好のみに基づく意思決定ではなく、様々な慣習や社会的倫理などの外的な規範も課される状況における消費者選択の特徴を明らかにした。
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