実証研究においては、日本の上場企業の財務諸表から構築したパネル・データを用いて、1980年代から2000年代前半にかけて企業の流動性資産の保有行動がどのように変化してきたのかを実証的に検証した。その結果、(1)1990年代までは一貫して、成長性の高い企業が流動性資産を保有しようとする行動が観察される、(2)1990年代半ばまでは、製造業を中心として銀行借入や企業間信用などの資金調達手段が流動性資産保有と強い代替関係にあった、(3)金融危機を含む1990年代後半には、そうした代替関係が弱まった、(4)金融緩和基調となった2000年代前半には、それまで流動性資産保有に影響を与えていた要因が、もはや強い影響を与えなくなった、の四点を明らかにした。また、理論分析においては、不確実性が、景気循環や経済成長に及ぼす効果を分析するための予備的分析として、ナイト的不確実性を導入したモデルを構築し、不確実性の増大と、直接投資行動および人的資本・健康資本蓄積の関係を分析した。その結果、将来に関する不確実性の増大は、直接投資受入れ国の最適法人税率の下落をもたらすことと、人的資本・健康資本蓄積を阻害することを明らかにした。さらに、金融市場の不完全性を考慮した世代重複モデルを構築し、資本市場が完全であるときと全く機能していないときの両極端の場合には経済は安定的であるが、資本市場の不完全性が中程度である場合には、経済が著しく不安定化することを明らかにした。
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