研究概要 |
本研究の目的は,政府の意図と民間の自由取引とが複雑に絡み合いながら急速に発展する「炭素市場」の健全な市場形成に寄与することである.すなわち,最近の各国政府の手を離れて進行する国境のない「炭素市場」の現状の下で,長期環境政策との整合性,エネルギー政策との整合性,国内外の政治経済への配慮などの観点から,「健全」といえる市場形成を,政策当局がいかなる形で誘導するべきかについて,経済分析を行うものである. このような研究目的のもと,本研究では「炭素市場」の形成に関わる政策を三つの局面に切り分けて取り扱う.すなわち,市場の設定,監視と制御,長期的育成である.初年度である21年度は,それぞれの理論的枠組みついて検討した.第一に,排出権市場の価格不確実性を抑制するメカニズムとして考えられている「セーフティーバルブ」について検討した.それは査読論文(「排出許可証取引における市場価格規制」『経済政策ジャーナル』(2010))および1件の国際学会発表として発表されている.これは,セーフティーバルブ設定と総排出規制目標との最適な組合せを理論的に導くものであり,政策形成に寄与するものである. また,長期的な環境技術投資について検討した.これは10th IAEE European Conference, International Association for Energy Economics(2009年9月ウィーンにて)をはじめ3件の国際学会,1件の国内学会(いずれも共著)にて発表された.これは,炭素排出を抑制する技術について最適導入タイミングを分析するものである. さらに,property right(財産権)の初期割当について,属性を持つ資産の価格付けについて検討した.これらは,Quantitative Methods in Finance 2009(2009年12月シドニーにて)をはじめ,2件の国際学会,3件の国内学会(いずれも共著)として発表されている.
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