本研究は,各国政府管理の内外で進行する国境のないエネルギー・炭素市場の現状の下で,長期環境政策との整合性,エネルギー政策との整合性,国内外の政治経済への配慮などの観点から,健全といえる市場形成を,政策当局がいかなる形で誘導するべきかについて,経済分析を行うものである.この目的のもとで,環境経済学と金融経済学・ファイナンスを統合した環境規制政策と市場競争政策について分析を行ってきた. 本年度(平成25年年度)は,次のような研究を行った.まず,市場の設定,すなわち多様性と柔軟性のある排出枠発行方式の研究としては,価格変動を抑制する機能である「セーフティーバルブ」について昨年度まで分析を進めてきたところであるが,本年度はそれに関連する講演などを通してその成果の発信に努めた. 次に,監視と制御,すなわち排出権関連デリバティブ市場規制政策の研究としては,これまでの成果に基づき,環境・資源経済問題一般に対する金融工学的手法の適用について検討を進め,より汎用性の高い理論体系の構築について考察した.具体的には,方向性のある価格付けの理論と電力取引への適用について分析を行い,スマートグリッドにおけるデジタルオプションについて考察した. さらに,長期的育成,すなわち制度移行長期計画の研究としては,引き続き,長期的な制度設計の考え方,炭素のみならず「環境の質」や「エネルギーセキュリティー」の観点について検討を行った.具体的には,枯渇性資源消費と習慣形成の動学,気候変動政策モデルにおける世代内と世代間の衡平性について,理論モデルによる分析を行った.また,新聞などのテキスト情報からセンチメントを抽出しインデックスを構築する手法について基礎的な分析を行った.
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