研究概要 |
平成22年度は交付申請書の研究の目的や研究実施計画に沿って、(1)学歴等の属性間及び属性内賃金格差・賃金構造、(2)若年者等の就業・雇用形態、(3)所得格差と仕事満足度や健康・幸福度等について国際比較も含めて分析し、つぎのような知見を得た。 (1)IT化等による需要構造の変化によって賃金決定要素が従来のスキル(学歴や経験年数)からタスクへ(職種・職階)へと移行しているという仮説を1990年代以降の大規模賃金データで検証した結果、仮説と整合的な推計結果を得た。 (2)個人のパネルデータを利用し、能力や危険に対する態度を制御したうえでも個人の所得雇用の変動リスクが賃金プレミアムを発生させているとともに、主観的な幸福度へも影響があることを示した。 (3)日英独の若年労働移動に関する個票データを分析した。その結果,イギリスでは主に転職を通じて,ドイツでは転職と同一企業内部での登用を通じて一時雇用から常用雇用への早期の移行がみられるのに対して,日本の一時雇用から他の雇用形態への移行は緩慢であり,国際比較の見地からも日本の労働市場における初職の重要性が示された。 (4)日中韓各国の総合的社会調査(JGSS,CGSS,KGSS)の個票データを用いて、個人の幸福度(生活満足度)が所得の絶対的水準だけでなく、準拠集団の平均的な所得水準との比較によって左右されるという「相対的所得仮説」の妥当性を確認した。なお、比較のベースとなる所得は、日韓では世帯所得、中国では本人所得であることも明らかとなった。 (5)JGSSの個票データを用いて、個人の幸福度(生活満足度)が、居住地域の所得格差が大きいほど低下すること、また、その関係が非正規雇用など不安定な就業形態にある者ほど明確になることを明らかにした。 (6)個票データを用いて、昇進システムが賃金に及ぼす効果を検証したところ、当該の雇主と潜在的な雇主の間での情報の非対称性(Symmetric Learning)の存在を示唆する実証結果を得た。
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