研究概要 |
ワークス社との提携プロジェクト(研究計画(2))において、化学メーカー、機械メーカー計2社から人事データを取得し、職務歴(発令)データ、賃金データ、評価データ、勤怠データのクリーニングとマッチングを23年夏までにほぼ終了した。全社員の入社以来の職務歴と2004-2009年5年間の賃金、評価、勤怠パネルが完成したことで、内部労働市場のミクロ的な分析が可能になった,(イ)男女間の賃金格差が企業内労働市場でどのように発生しているか、(ロ)入社時の経済状況が労働者の将来の賃金に長期的な影響を及ぼすコーホート効果がどのように生まれているか、(ハ)人事制度変更が労働者の離職行動にどのような影響を与えているか、等の研究課題の分析に着手。 営業社員の最適行動の研究(研究計画(4))において、日本の自動車ディーラーの取引・人事データを使った静学的なモデルに基づく分析はほぼ終了し、Journal of Economics and Management Strategyへ論文を投稿した。主な成果は、次の二つである。まず、終身雇用が保証されている企業では、年配の営業社員は、金銭的報酬の強まりと業績の改善の間に一定の正の関係が検出されるのに対し、若い営業社員の間では、そうした正の関係が見いだせない。これは、昇進や社内での評判といったキャリアコンサーンが、若い社員にとって金銭的報酬よりも重要な役割を果たしている可能性を示唆している。二つ目は、非線形報酬制度が営業社員による業績指標の操作を引き起こしていること、具体的には配車日の操作が行われているという統計的証拠を示した、業績指標を歪めるバイアスは経験が長いほど、また業績の操作から得られる個人的利益が高いほど顕著に表れる。これは、インセンティブ契約設計の実務において非線形報酬契約の問題点とそれを解決するための方策について示唆を与えるものとなった。23年度-24年度に動的な計量モデルの推計を行うため、推計モデルの検討とデータの整備を行った。
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