研究課題/領域番号 |
21330058
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大湾 秀雄 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60433702)
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研究分担者 |
川口 大司 一橋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (80346139)
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キーワード | 労働経済学 / 人事経済学 / 賃金 / 昇進 / ジェンダー / キャリア / 国際研究者交流 アメリカ / 国際研究者交流 デンマーク |
研究概要 |
大手企業向けERPパッケージシステム大手のワークスアプリケーションズ社との協力で取得した化学メーカー、機械メーカー計2社の人事データを使用して、研究実施計画で述べたいくつかの研究テーマに取り組んだ。このうち、以下の2つの課題が有望と判断し、年度中にワーキングペーパーとしてまとめた。 (1)組織内男女賃金格差のダイナミクス:組織内男女賃金格差の主因として、出産や育児によるキャリアの中断や、女性の短時間労働があることを示すと同時に、昇進の分析から、長時間労働を厭わず短期間の育児休暇で仕事復帰する女性のみが昇進で優遇されている実態を明らかにした; (2)コーホートサイズ効果の分析:経済全体としては、不況時に学校を卒業した者は長期に亘って将来の所得が負の影響を受けることは広く知られており、コーホート効果と呼ばれるが、組織内の分析では逆に不況期に卒業した者は、同期入社数が少ないため競争面で有利となり(コーホートサイズ効果)、逆に長期にわたり昇進や報酬面で正の影響を受けることを示した。 加えて、欧米の研究者と連携して、日欧米企業の主観的評価(人事考課)のパターンにどのような共通点や差異が見られるか分析を行い、相違点よりも多くの共通点があることを示した。また、平成24年度への研究費の繰り越しにより、不完全な業務コード、所属コード、組織図情報を整理して、キャリアや職能分布の分析が行えるようデータの整備を行った。これにより、25年度以降、どのようなキャリアが昇進と結びついているか、組織内の職能の分布が技術進歩と共に時系列でどのように変化しているかといった分析が行えるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に記述した4つの目標のうち、(1)産学連携によって人事データを取得するフレームワークを整備する(実際には経済産業研究所を巻き込んだ産学官連携プロジェクトに発展)、(3)理論モデルのシミュレーションによる企業組織内部の知識獲得プロセスの研究を行う、(4)人事制度が営業社員の行動にどのような影響を与えているかの多面的な分析を行う(H21年度以前に取得済みのデータによる分析)、の3つは既に達成した。例えば、(3)については、ジャーナルへの論文投稿1本が済んでおり、(4)については、2本の論文の査読ジャーナル掲載、3本の論文のジャーナル投稿準備が進んでいる。(2)上記(1)で獲得したデータを利用して内部労働市場の人的資源配分メカニズムを分析する、というプロジェクトに関しては、取得したデータのファイル数が膨大で、関連ファイル同士の紐付けがなされていない形での提供であったため、データの加工、クリーニングに1年ほどかかり、分析の着手に遅れが生じた。22年度頭に開始予定であった分析が23年度にずれ込んだことで1年程度の遅れが生じたが、24年度にプロジェクトメンバーの増員を行ったことで、25年度までに当初予定されていた多くの研究課題を終える見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に、立命館アジア太平洋大学の鈴木勘一郎教授、東京大学学振PD(現一橋大学講師)橋本由紀、あと東京大学、一橋大学それぞれ1名の大学院生を追加して、産学官連携プロジェクトとして取得した人事データの分析作業を急いだ。また、研究連携者である加藤隆夫米国コルゲート大学教授を中心に海外研究者と連携した人事データの国際比較を進めており、平成25年度には海外の研究者7名を招聘して、研究成果の社会への還元を目指した国際シンポジウム、研究成果へのフィードバックや共有を狙った国際ワークショップを行う予定である。 また、性格の異なる産業間での比較や研究課題の拡大を狙って、平成25年度には製薬メーカーや小売会社をターゲットにしたデータの取得を計画している。 こうした研究プロジェクトのテーマ拡大、メンバーの拡充、国際連携の推進に伴って、リソース不足が深刻となったため、1年前倒しで研究課題の基盤研究(A)への格上げと更新の申請を行い、平成25年度を開始年度とする5年プロジェクトとして科研費の交付が認められた。 化学メーカー、機械メーカーの人事データを用いた分析としては、評価のバイアス、従業員の学歴と能力情報蓄積(employer learning)、持ち株会への参加と労働時間、欠勤、離職および評価との関係、出向の役割、技術変化が組織図に与える影響、研究開発者組織における知識スピルオーバーとインセンティブ構造、などについての分析を平成26年度までに行う予定である。
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