「研究実施計画」に基づいて歴史空間データの整備を行うとともに、すでに整備されたデータの分析を行い、研究成果を発表した。研究協力者と共同で、1902・1919・1935年時点の日本における工場の地域的分布の可視化と数値化、1902・1919年における工場規模分布の地域間比較、1923年の関東大震災が東京地域の工場分布に与えた中長期的影響、20世紀初頭の製糸業における産業集積の生産性効果とその源泉、の各テーマについて研究を進めた。これらのうち、製糸業における産業集積の生産性効果とその源泉に関するプロジェクトは、日本の製糸業の全工場について工場別の投入・産出・所在地データを整備し、それを用いて工場集積が生産性にプラスの影響を与えることを確認するとともに、プラスの生産性効果が知識スピルオーバーなどの集積の直接的効果によるのか、あるいは集積が工場間競争を激化させ、生産性が相対的に低い工場を淘汰するという間接的効果によるのかを識別することを試みたものである。分析の結果、集積の生産性効果は主として工場淘汰を通じた間接的な経路で生じていることがロバストに確認された。これは、集積効果の源泉について良質のマイクロ・データを用いて特定した点で国際的に新規性の大きい成果と考えている。研究結果についてはほぼ月1回のペースで研究会を行って代表者・協力者間で情報共有と意見交換を行い、まとまったものからディスカッションペーパーとしてまとめ、また国際学術誌への投稿を行った。
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