本研究の目的は、1980年代末から2010年前後にわたる世帯・小地域(行政村)のデータベースを構築し、中国の経済発展・体制移行過程における都市-農村格差の変動とその背景要因を分析したうえで、中国政府が近年強化しつつある農村公共政策の意義と問題点を明らかにすることにある。平成21年度には、就業・所得構造とりわけ地域間労働移動の状況(世帯の農業経営状況、世帯員の労働時間配分と非農業活動の状況、外地就業者の就業チャネル・就業地点・職種・収入および仕送りなど)に重点をおく農村世帯調査を実施し、データベース化を開始した。またこれまでに整備済みのデータベースを活用して、農村小地域(行政村)間における世帯所得の成長率の格差に影響する経済的要因と非経済的要因を分析した論文2本(「中国農村的収入増長」、"Growth of Villages")、農村世帯が外的ショック(自然災害)に起因する所得減少に対処するうえで、農村地域社会における社会関係資本(social capital)がどの程度機能しているかを分析した論文1本(「市場化進程中社会資本」)、人的資本・政治的資本(political capital)・社会関係資本が世帯所得形成に及ぼす効果の、時系列的・産業横断的な比較分析を行った論文2本(「誰進入了高収入行業」、"Power as a Driving Force of Inequality in China")を学術誌に発表した。また、平成21年5月には北京師範大学で開かれた国際会議"Workshop on Income Inequality in China"に出席し、本研究の目的と研究枠組み、および作業仮説について報告を行い、参加者から今後の研究に資するコメントを受けるとともに、海外共同研究者と調査計画と研究成果の取りまとめに関する協議を行った。
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