本研究の目的は、1980年代末から2000年代をカバーする世帯・小地域データベースを構築し、中国の経済発展・体制移行過程における都市-農村格差の変動とその背景要因を分析し、格差是正のための公共政策の意義と問題点を明らがにすることにある。平成22年度においては、まず第1に、就業・所得糟造とりわけ地域間労働移動の状況に重点をおく農村世帯調査を継続して行い、データベースの作成を進めた。第2に、社会保障制度の変化が家計の貯蓄に与える影響が世代により異なることを都市居住世帯のケースで明らかにした論文("Public Pension and Household Saving")を国際学術誌に発表した(印刷中、電子版に掲載済み)。この結果は、社会保障政策の導入が農村居住世帯に与える効果を分析するための参照枠組みとなる。また第3に、最も重要な家計資産である住宅を取り上げて、2000年代を通じた農村・都市における住宅資産格差の変動を比較すると共に、住宅資産の決定要因が農村と都市でどのように異なるか、また農村における所得・就業構造の変化や地域間労働移動の進展が住宅資産保有にどのような影響を与えているかを分析する研究を進めた。その中間的成果は、海外共同研究者により、平成23年3月に開かれたAssociation of Asian Studiesの年次総会で発表された。さらに本研究課題による貢献を含む中国家計の長期ミクロデータ構築に関する国際ワークショップ"Workshop on Income Inequality in China 2010"(平成22年5月、北京師範大学)に参加し、長期ミクロデータベースを活用した所得分配と都市-農村格差に関する研究の方向性について、海外共同研究者を含む中国内外の研究者と議論した。
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