研究課題
日本とヨーロッパでは改良技術の権利に関しての取り扱い方が異なり、重要な問題となっている。日本では、グラント・バック条項、すなわち、ライセンス契約締結時に、改良技術の譲渡をライセンサーがライセンシーに義務付けるという条項、は譲渡価格が不当でない限り認められている。これに対し、ヨーロッパでは、ライセンサーのシェアが高い場合にのみ禁止されている。そこで、グラント・バック条項がライセンサーおよびライセンシーの投資にどのような影響を与えるのか、また、技術開発投資促進の観点からグラント・バック条項を禁止することが望ましいのかどうかを分析した。ライセンシーとライセンサーの戦略的行動を考慮に入れたモデルにより、買取価格が十分高い時、グラント・バック条項により、ライセンシー、ライセンサーの投資水準が共に上昇することを示した。すなわち、グラントバック条項は禁止すべきではなく不当に低い買取価格のみ規制するべきであるという結論が得られた。理論的な分析道具を実際のデータに当てはめた実証分析に用いるためには、理論モデルを数値的に解く方法について検討しておく必要がある。そのため、契約理論の基本的なモデルのうちの代表的なもの(逆選択の問題)を1つを取り上げて、数値計算のためのプログラムと、それを用いたときのメリット・デメリットについて検討した。そこでは、理論分析においてモデルの簡単化のためにおかれるいくつかの仮定(単一交差性と単調性)が現実には成り立ちにくいことを数値例によって示す一方で、こうした仮定をおかなくても、今日普通に用いられているコンピュータのスピードを前提とする限り、数値計算において特段の困難がないことも明らかにされた。
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