研究概要 |
平成21年度は、中国、米国、日本を中心に国際産業連関表の推計を進めるとともに、中国人民元の均衡為替レートの推計を行った。また、アジア諸国の為替レート制度に関する研究も進め、オーストラリアのEdith Cowan Universityと共同で国際Workshopを開催し、その研究成果を発表した。本研究の意義は2つある。一つは、実体経済の要因を考慮して均衡為替レートを推計するために、国際産業連関表を推計した点にある。研究代表者の佐藤は、研究協力者のShresthaと共同で毎年の国際産業連関表を推定する手法を考案した。この推定方法に基づき、中国、米国、日本の均衡為替レートを1990年代初めから時系列で推計した。この推計作業は他に例を見ない先駆的な研究成果であり、今後、国際経済学の他の分野にも応用することが可能である。次に、Yoshikawa(1990,AER)の手法に基づいて、中国人民元の対米ドル名目均衡為替レートを推計した。その研究成果は経済産業研究所のDiscussion Paperで公表されることが決定している(Sato, K., J.Shimizu, N.Shrestha and Z.Y.Zhang, "New Estimates of the Equilibrium Exchange Rate : The Case for Chinese Renminbi", RIETI Discussion Paper Series)。同論文では、中国人民元が2000年時点の水準から2008年にかけて60パーセント切り上がる必要があることを報告している。興味深いことに、推計結果が示す60パーセントの人民元切り上げは、中国が対米貿易黒字を急激に拡大させ、その結果驚異的なペースで外貨準備を蓄積していった時期とぴったりと符合している。しかし、他の均衡為替レート分析とは異なり、上記論文は貿易(経常)収支の均衡に関して何も制約を課さないモデルに基づいて均衡為替レートを推計している。むしろ、「世界の工場」と呼ばれる中国を中心としたアジア域内貿易の特徴、すなわち域内中間財取引の拡大と最終財の域外(特に米国)向け輸出を促進する貿易構造を反映した均衡為替レートの推計を行っていることが、本論文の最大の特徴である。
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