1.はじめに 本研究の目的は、倒産事象の背後にある「企業の倒産し易さ」という潜在変量が極値分布の一つである二重指数分布に従うのではないかという仮説を示唆することにある。 2.サンプル・データと倒産予測モデル 2003年に米国で破産・会社更生を申請した企業40社を倒産企業群としS&P100社のうちから金融を除く企業85社を非倒産企業群とした企業データ(検証データ)を用いて倒産判別モデルを構築した。リンク関数としては二重指数分布(対数補対数)を用いた。モデル式は倒産確率P=1-exp(-expZ)、ここでZ=52.845-7.762(Y8)+1.779(Y6)-1.368(X68)、変数はY8:対数フリーキャッシユフロー比率(資金繰り)、Y6:対数時価負債倍率(レバレッジ)、X64:CF営業収入(収益力)の3つ。 3.生存時間分析(Kaplan-Meier分析およびワイブル分布への当てはめ) 本モデルを用いて倒産確率予測値が99%未満とされた企業と同99%以上とされた企業群の生存曲線を描くとこの2つの生存曲線は統計上有意に異なったものとなつた(Log-Rankテストにようる有意確率≦0.001)。更に、「倒産確率予測値99%以上の企業群」に関し生存率S(t)の対数補対数を縦軸とし、生存時間(計測年月から倒産までの月数)の対数ln(t)を横軸としてプロットしてみれば、ln[-lnS(t)]とln(t)の間にはほぼ線形関係があり、生存関数がワイブル分布に従うことが観察された。 4.判別分析における二重指数分布モデルの優位性 二重指数分布をリンク関数とする倒産判別モデルAUCを用いて他モデルと比較してみるとロジスティック分布モデル、標準正規分布モデルに比べて優れた倒産予測力を示した。 5.まとめ(極値分布の示唆) 二重指数分布(グンベル分布、極値分布の一つ)をリンク関数とする判別モデルの精度が高いこと、倒産確率が高い企業の生存時間がワイブル分布(極値分布の一つ)に従うという結果は、倒産企業群が横断的にも時系列的にも「倒産し易さ」を反映した極値分布的なものに従っていることを示唆している。
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