研究概要 |
本研究プロジェクトは,持続可能な交通体系の実現に資する総合的な交通政策構築へ向けて,評価指標をはじめとした同テーマに関する基礎的研究検討を行うことをその目的としたものである。プロジェクト最終年度にあたる23年度の具体的成果としては,まず評価指標の代表的存在とも言える社会的費用,それも政策上も焦点となっている自動車交通おける社会的費用について,これまでの研究成果を踏まえたモデルに基づき日本のIII都市を対象に推定した論文が,国際的査読雑誌であるUrban Studiesに掲載されたことが挙げられる。同論文では,都市規模が大きくなるにつれて自動車交通による社会的費用も加速度的に上昇すること,道路建設は社会的費用の減少には貢献しないが公共交通機関の充実は社会的費用の減少に若干であるが貢献すること,5項目で捉えた社会的費用のうち道路混雑が半分近くを占める大きな要素であること,自動車の社会的費用はGDPの約8%を占め,揮発油関連税制では16%程度しかカバーしきれていないことを明らかにした。一方でこれまで進めてきたTransit Oriented Development(TOD: 公共交通を基軸にしたまちづくり)の検討にとって不可欠な駅勢圏に関する研究についても,これまでの成果を発展させ,駅間競合ならびに優等列車サービスの影響について有意義な知見を明らかにすることができた。また,本研究プロジェクトを今後さらに発展させる、持続可能な交通体系実現の上で必要となる新たな地域交通政策動向とその意義についての研究にも着手し、まず英国の1990年代の動きを把握しこれをまとめた。最後に,昨年10月,交通政策・交通経済分野の第一人者であるNash教授(リーズ大),Button教授(ジョージメイソン大)を招いての国際シンポジウム「持続可能な社会における交通政策」(日本交通学会70周年記念:座長・統括役は研究代表者)が有意義な成果とともに終え、学会員の高い評価を得ることができたのも,これまでのわれわれの研究成果があったからこそである。
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