研究課題/領域番号 |
21330141
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
三本松 政之 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (10196339)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 外国人労働者 / 結婚移住女性 / シティズンシップ / デニズンシップ |
研究概要 |
日本に定住化している外国人移住生活者の課題を明らかにすることを目的に研究を進め、①定住化に伴い複合多問題化する生活課題の把握、②日韓の外国人移住生活者の事例研究、③非正規労働者(未登録労働者)への民間団体による支援とミッションの位置づけ等に関する研究を進めている。定住外国人の支援として福祉コミュニティ形成の課題がある。国内では日系ブラジル人を中心とした外国人労働者の集住地域でのリーマンショック後の実態把握、基礎自治体の範域を超えた支援策やシステム構築に関わるメゾレベルでの研究を埼玉県、神奈川県で進めている。韓国においては移住労働者、多文化家族への支援に関わる制度やその実態について把握することに努め、韓国の外国人労働者施策、結婚移住者への支援施策の現状と課題について把握してきた。 韓国調査では、制度的な支援の対象とはならない非正規労働者(未登録労働者)への民間団体の支援とそのミッションの位置づけ、基礎となる人権のとらえ方を把握した。調査枠組みとして、①外国人労働者、結婚移住者支援の民間団体のミッションの基盤となる考え方、②外国人労働者、結婚移住女性支援の動向、③外国人労働者支援と多文化家族支援の相違などについて、④地域住民(ホスト住民)と外国人労働者・多文化家族の関係について、⑤韓国の「社会統合」政策の現状についてを設定した。調査は2012年8月26日から29日にかけて実施し、訪問先は仁川広域市の韓国移住人権センター、インチョン女性の電話、ソウル市の移住女性緊急支援センター、韓国移住女性人権センターである。 調査からは「実質的なデニズンシップ」化の進展という着想を得た。韓国では一方で結婚移住者とその家族である「多文化家族」への支援、他方で外国人労働者への定住化防止策の徹底という政策の二面性がみられるが、後者に関わりNGO団体の支援による実質的なデニズンシップ化がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、昨年度に引き続き多様な経緯のもとで日本に定住化している外国人移住生活者への支援という視点から研究を進め、外国人移住生活者の定住化に伴い複合多問題化する生活課題把握へのアプローチの確立と、支援対応モデルの構築に向けた事例研究を中心に調査を行った。 2012年度の韓国調査においては外国人移住生活者への支援を行っている4カ所の団体に対する聞き取りを行った。その成果としてデニズンシップの実質化という新たな観点を得ることができた。また支援にあたっては当事者のエンパワーメントという観点からの支援がいずれの団体においても重視されていた。しかし、未登録労働者への支援の論理についてはより丹念かつ継続的な関わりのなかで具体的な事例を通して見出していく必要性がある。 日本においては継続的に調査を続けている岐阜県美濃加茂市の外国人当事者団体による調査に協力し、現状の把握を行った。また神奈川県で外国人が集住している地域での多文化ソーシャルワーク実践に関わる試みに参与し、就労、難民、中国残留孤児としての帰国など多様な契機での定住化が進展している状況を把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
多文化主義を実体化する活動が推進される中で外国人移住生活者の人権を尊重し市民権が保障される民主的なコミュニティの形成が明確な目標とされる一方で、グローバル化が進展し、シティズンシップと国籍との不一致ということによる課題が顕在化しつつある。この現状を踏まえて、外国人移住生活者が居住する地域でのローカルなレベルにおける「デニズンシップの実質化」がいかに図られているのかという実態とその論理の把握という課題について最終年度において明らかにしたい。デニズンシップの実質化は貧困の再生産、外国人移住生活者の高齢化等の問題に関わり地域福祉の課題としても喫緊のものとなる。したがってデニズンシップの実質化が進んでいる韓国における支援団体の支援の論理をヒアリング調査によって明らかにしたい。また「生活者」としての外国人移住生活者のもつ生活課題の複合性という認識の下での支援策の確立が重要であり、このような移住生活者への定住化の支援は基礎自治体の範域を超えた支援策の構築に関わるメゾレベルの政策的観点が必要であることから、制度的対応が進む韓国の諸施策や外国人労働者支援センター等の活動実態を把握し、また体系的な政策推進に伴う課題を把握する。このために昨年度に引き続いての補充調査を実施し、政策理念と実態との比較を通して、具体的な福祉施策形成における課題を提示することを目的として研究を進め、調査報告として提示する。
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