リスクに対する人々の不安を低減させるための正攻法は、リスクを削減し、それを伝えることである。規範的には、リスクが増大すれば不安は高まるが、減少すれば、不安も低下すると考えられるからである。しかしながら、リスク対策を講じてリスクを削減して、それを伝えることで本当に人々の不安は低下するのだろうか。本研究では、リスク不安を、ある特定のリスクに対する不安と、そのリスクが含まれるカテゴリー全体に対する不安とに分けて測定した。そして、特定リスクを削減するための対策がとられたという情報によって、その特定リスクについての不安がどれくらい下がるのか、さらに、カテゴリーへの不安がどれくらい下がるのかを検討した。材料としては、列車事故、地球温暖化、犯罪被害、とバリエーションを持たせた。実験の結果は共通しており、リスク削減情報はターゲットとするリスクそのものについての不安を引き下げるうえで有効であることが確認されたが、一方、リスクカテゴリーに対する不安は、リスク情報のみを出したままの条件も、その後に対策をとったことを伝える条件も同じレベルであった。しかも、両者は統制条件より高い不安レベルにあった。すなわち、「リスクがありましたが、その後有効な対策を施しました」という情報は、当該リスクが含まれるより広いカテゴリーへの不安を上げてしまい、リスク対策を導入したことによる不安低減の効果はみられなかったのである。この結果についての実務的インプリケーションを議論した。
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