ロボットと自閉症児との長期縦断的および実験的なインタラクションを分析することで,心理化フィルタ仮説(他者の身体動作から社会的な情報を抽出するためのフィルタが自閉症児では十分機能していない)を検証するとともに,療育に適したロボットのデザインとインタラクション機能を検討した.本年度は,過去4年間の本研究事業によって収録・呼び分析されたロボット・自閉症児のインタラクションデータをより詳細に分析し,視線計測を含めた心理実験をとおして,心理化フィルタ仮説の検証や,自閉症の認知メカニズムのモデル化を進めた. インタラクションデータの分析については,ロボット操作者による質的なエピソード記述(ロボットの視点から収録したビデオデータに対するアノテーション)と,アイコンタクトや身体接触の頻度・時間といった量的データとの間の相関を吟味した.結果として,現状で分析・記録している量的データでは,この相関を捉えるには十分な記述量(粒度)を備えていないことがわかり,今後はより詳しい量的データを扱う必要が明らかになった. 自閉症モデルの構築に関しては,本研究事業で直接の検証対象としている「心理化フィルタ仮説」を,より統一的に自閉症を捉えなおすために「認知粒度仮説」として進化させ,複数の論文や学術集会で発表した.インタラクションデータの分析から,自閉症児の行動パターン(行動上の粒度)との関係を検討した.現在,この認知粒度の違いを,視線計測から検証するため,シンプルなアニメーション(図形の動きをミクロ的・マクロ的粒度で予測・説明できるもの)を使った心理実験を進めている.
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