2000年にスタートした配偶者と死別した高齢者の縦断研究は2002年、2005年、2009年と3度の追跡調査を行い、それぞれ短期的、中期的、長期的な状況に関するデータ収集を行ってきた。今年度からは、長期にわたる縦断研究の全容を把握する分析が可能となった。初回調査に参加した276名のうち最終調査に参加した対象者は113名で、そのうち82名が全調査に参加した。死別体験からの回復過程についての分析は縦断データの解析ソフトによる分析を行った。長期縦断調査では死亡等による欠損が避けられないが、4時点で分析が有効であった対象者について、悲嘆の指標に関して反復測定の分散分析を行い、平均値の差を検討した。GHQの下位尺度では身体症状は低下を示していたのに対して、社会的障害が上昇する傾向が見られ、GHQ総合得点では有意な変化が認められなかった。悲しさや寂しさといった悲嘆に関わる感情については顕著な得点の低下が認められた。リニアーな低下が予想された悲嘆に関わる感情指標については潜在曲線モデルを用い、その回復過程を切片と傾きで予測する分析を行った。悲しさや寂しさといった感情では切片の平均値は大きかったが、傾きも大きく、順調な回復が示唆された。これらの感情の回復過程について年齢や性別による影響を検討したが、年齢は切片に性別は一部で傾きに影響していた。これらの分析結果は、配偶者の死別後に長期間にわたって生存した対象者の回復過程について有益な知見を提供する。しかしながら最終的に80名の対象者が死亡しており、死亡者は生存者より初回調査時の適応指標が悪かった。生存時間分析を加えることによって総合的な視点からの分析が可能となった。
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