今年度は配偶者と死別した高齢者のその後の10年間を4度にわたる縦断調査によって収集したデータを用いて分析を行った。配偶者の死後10年間生存した高齢者について、悲嘆からの克服の過程を、情動面、精神的健康面について分析し、死別から6年後の調査で多数の対象者がほぼ回復し、さらに10年後の調査でも回復が確認された。しかし死別後10年間生存した対象者のほとんどが「通常の悲嘆」と言われる回復過程をたどる一方で、6年後の調査で「複雑性悲嘆」と分類された対象者も少数であるが認められ、それは10年後の調査でも減少することはなかった。「複雑性悲嘆」の場合には10年後の調査でも回復しないことが判明したが、この「複雑性悲嘆」の高齢者を早期に弁別することは予防的観点から重要であると考えられた。初回調査時点で将来「複雑性悲嘆」となりうる対象者を予測するために、初回調査で実施した「死別の心理反応尺度(BRS)」と「複雑性悲嘆」との間の関連性を調べた。BRSは「複雑性悲嘆」の対象者を早期に予測できる尺度として有用であることが明らかになったが、BRSは項目数がやや多いために16項目の短縮版(RBRS)を作成した。 配偶者との死別から10年後には152名の対象者が生存、80名が死亡していたが、死別からの生存年数に焦点をあてた生命予後に関する分析では、「男性」、「高年齢」の他に初回調査時に「精神的健康が悪い」、BRSの下位尺度の一つである「愛着」が低い場合等に死亡率の相対危険率が高いことが明らかになった。 配偶者の喪失によって変わってしまった想定世界を「伴侶と歩んだ人生アルバム」を作成するプログラムに取り組むことによって「意味の再構成」を行い、喪失体験を人生に取り込む介入の効果分析は、精神的健康の回復に加えて、人間的成長等の発達的機能をも促進させることが判明した。
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