研究概要 |
人間の視覚情報処理は,運動・形状・色・奥行き(立体視)など様々な特徴の情報が抽出され,いったん特徴ごとの情報処理を経た後,大脳の高次レベルで再び統合される形で処理されていると考えられている.本研究課題では,視覚情報の分離・統合が脳内のどの部位で行われているか,心理物理学で用いられる刺激を用いて非侵襲計測した際の脳活動パタンから明らかにすることを試みた. 平成22年度までに,色と運動の情報の統合に関する実験を行い,脳内の視覚野の広い範囲において色と運動の情報が結合した信号が存在する事を確認した.その中で特に,我々の経験的な視覚体験(知覚)とリンクした部位を特定するため,物理的に同じ刺激でありながら知覚が交代する錯視を利用し,被験者が報告した知覚にあわせて脳活動を解析することを進めた.その結果,初期視覚野の一部(第二次/第三次視覚野)および運動視に特化した脳部位(MT+)において特に被験者の知覚と関連した脳活動の変化が見られる事がわかったため,これを日本神経科学会大会において報告した.また,平成23年度は形と色の情報の統合に関する脳活動計測実験およびその解析を行った.その結果,色と形の情報が結合した信号も初期の視覚野において観察する事ができた.脳活動を調べる範囲をさらに高次視覚野に広げて解析を行い,その結果を映像情報メディア学会ヒューマンインフォメーション研究会において報告した.これらの研究成果については現在論文投稿の準備を進めている. 以上の研究の結果,脳内での色と形,色と運動の情報の分離・統合の過程の全てを明らかにするには到らなかったが,視覚野の比較的広い範囲に複数の視覚属性の信号がリンクされた形で存在している事,さらに知覚に関連した脳活動を明らかにする方法を確立できたことは大きな成果であった.
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