研究課題
本年度は、自閉症者の他者の顔に対する選好の弱さに着目し、自閉症者における顔処理について脳波計測による検討を行った。ヒトにおいては、新生児が、顔状刺激をよく見る(選好を示す)ことがこれまでに報告されており、この選好性が後の社会性の発達に重要であると考えられている。今年度は、自閉症スペクトラム(ASD)児と定型発達(TD)児を対象に、顔状刺激の処理過程について、評定課題と脳波を用いた事象関連電位測定を行い、検討を行った。評定課題の結果から、ASD児もTD児と似た手がかりを用いて、実際には顔ではないモノの顔らしさを判断することが明らかとなった。また、脳波を用いた顔状刺激に対する事象関連電位の結果から、TD児においては、顔に選択的に反応する脳波成分であるN170が顔状刺激に対しても振幅が増大することが確認されたが、ASD児においては、そのような顔状刺激に対するN170の振幅の増大が見られなかった。本年度はその他、他者の顔への注意を強めることによって、模倣などの社会性の向上を促すことができるか検討した。今回は、対面するモデルの顔を見る条件と、モデルの顔を見ない条件で、ASD児では困難であると報告されている手のポーズの模倣に違いが見られるかを分析した。その結果、ASD児では、モデルの顔を見る条件のほうがモデルの顔を見ない条件より、モデルの手のポーズと一致した模倣行動を行うことが分かった。この結果は、ASD児の療育へも活かせる可能性もある知見であり、重要な研究であると考えられる。また、自発的な模倣行動として、あくびの伝播についても検討した。その結果、これまでASD児ではあくびがうつらないとされていたが、あくび映像の顔(目の領域または口の領域)をよく注視すれば、あくびがうつることが示された。以上の成果は、International Meeting for Autism Researchや日本発達心理学会などで発表を行い、国際学術雑誌に投稿準備中である。
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Journal of Autism and Developmental Disorders
巻: 41 ページ: 629-645
Research in Autism Spectrum Disorders
巻: 5 ページ: 1230-1242
巻: 5 ページ: 1264-1269