研究概要 |
研究の目的は,音響信号によって伝えられる寸法情報によって音脈分凝,即ち,耳に到達した段階では混在している信号を外界の音源に対応する成分にいかに仕分けて聞くことができるかについて,その機構を解明することにあった。 平成22年度までの研究成果として,共鳴体の寸法の違いの手掛かりが音源分離にとって有効であること,共鳴体の寸法とは独立に音源の寸法に関係すると考えられる駆動周期(基本周波数)と寸法要因の間には知覚的な依存関係が存在することが主に分かってきた。本年度は各周期ごとに重畳加算されるインパルス応答がその都度寸法が異なったものとなるという刺激を用いて,その際に何が知覚されるかを系統的に調べた。その結果として,交替する寸法変化が一定のレベルを越えるとピッチの1オクターブ下への変位が生じることが確認された。つまり本来の2周期を1周期として知覚的に取扱い,単独のインパルス応答に備わる寸法の違いでは強固な音脈分凝手がかりにはなりにくいことを示唆する結果である。 この際に特徴的なことは,ピッチは1オクターブの間を他のクローマを経過せずに変化すると言うことである。基本周波数の変化によってはこのような知覚的軌跡を作り出すことはできない。このようなクローマが固定したままのピッチの変化は調波複合音の奇数次高調波を減衰することによって産み出されることが先行研究によって知られていることから,このような刺激を比較刺激としてピッチマッチングを行った結果,基本周波数の連続体上では離散的な分布を示したマッチング結果が連続的な分布をすることが分かった。つまり聴取者は単に基本周波数の違いと次元に加えて,主たる周期性のピークがどこに生じるかについての連続的な感覚を持ちうることが示唆された。この手法は寸法の違いだけではなく,それ以外の個人性の違いを用いても適用できることが分かり,新規性の高い研究分野の土台を築くことが出来た。
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