平成21年度の研究は、「オノマトペの指導効果の確認とその仕組みの解明」を音響的側面、心理的側面、生理的側面の三つの側面から分析することを目標として掲げたが、この方法ではオノマトペを使った行為の目的が不明確となり、オノマトペを活用した日本語歌唱の指導や歌唱の分析としては一面を恣意的に取り上げることになりかねないという問題が生じた。そこで、指導行為におけるオノマトペの活用実態を根本から問い直し、研究目標と研究方法の軌道修正をおこなった。 まず、オノマトペが歌唱に関わる領域で活用されている事例を数多く収集することから開始した。そして、オノマトペの指導行為における活用領域を、「オノマトペを発することによって発声器官や調音器官の使い方を包括的に伝える手段としての活用例」(オノマトペを発することによってねらいとする響きを導き出す。)、「歌唱行為における筋肉の動きをオノマトペによって比喩的に伝える手段として活用する例」(首筋をスッと伸ばして、ろうそくの火をフーッと消すようになど)、「声や楽器の響きの特徴の比喩としての活用する例」(音響的特徴をオノマトペに象徴化して活用する。キラキラした音、ツカーンと音を飛ばすなど)、「音楽表現の素材として活用する例」(『パラランダンス』『オノマトペの歌』『二匹の猫の愉快な歌』など)の四つの例を想定し、その領域区分の妥当性について、様々な事例を収集し検討を試みた。 その結果、この領域区分はある程度妥当性が認められるものの、事例収集の方法について、他の研究領域の知見、たとえば文化人類学などの援用を試みなければならないとの結論に達した。平成22年度は、この軌道修正した研究方法を基に、日本語の歌唱行為や歌唱指導におけるオノマトペの活用実態を明らかにするために、事例収集のためのフィールドワークによる音声や映像の記録に努める。
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