研究代表者が取り組んできた加群の退化と変形についての代数的定義に基づく研究を継続して行ってきた。とくに、 Cohen-Macaulay 加群の退化の新しい理論体系を構築することは本研究課題の重要な研究目標の一つである。この場合には、安定圏もしくは導来圏における退化を考察することが自然であると考えられるが、この点に関しては昨年度までの研究で退化の安定的類似の理論がほぼ完成し、Cohen-Macaulay 加群の退化に関して具体的な計算例を与えることができた。Proceeding of the American Math. Society に掲載の論文では、これら従来の結果を使って、偶数次元のA型の単純特異点上の Cohen-Macaulay 加群の退化の様子を記述するアルゴリズムを得ることができた。さらには有限表現型の完備 Cohen-Macaulay 局所環上の Cohen-Macaulay 加群の退化はすべて Auslander-Reiten 列の退化から得られることが証明できた。 また、これら退化の理論とは別に、可換環上の無条件鎖複体からなる導来圏において、ある種の消滅条件が得られた。それを使って、生成的にGorensteinであるような可換環上で(太刀川予想を含む)ある種の予想を提唱しているが、これについてはまだ未解決である。 さらに研究代表者は2014年3月に開催された日本数学会年会において、日本数学会2014年度代数学賞を受賞した。この受賞理由には、本研究課題の研究成果である加群の退化についての研究も含まれている。この点については本研究が概ね達成されたと(学会からも評価されていると)自負している。また、受賞特別講演では上記の概要で述べた予想についても言及した。
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